江戸川乱歩賞、第41回受賞作、『テロリストのパラソル』







数ある、乱歩賞受賞作の中でも、史上唯一、
直木賞と乱歩賞の、”ダブル受賞” に輝いたのが、
平成7年・第41回江戸川乱歩賞を受賞した、
藤原伊織作、『テロリストのパラソル』である。


この作品は、それまで長く、記録の破られることのなかった、
『アルキメデスは手を汚さない』の、文庫版の売り上げ部数を抜くなど、
その年のミステリー界の話題を、独占した。


いわゆる、団塊の世代の心情を描いたこの作品は、
予備選考・本選考を、”満場一致” で絶賛されるなど、多くの伝説を残している。


学生時代のある事件がきっかけで、過去を隠して、
生活していくしかなかった、アル中のバーテンダー。


いつものように、新宿中央公園でウイスキーを飲みながら、
ウトウトしていると、突如爆発が起こり、辺りは騒然となる。


被害者の中に、学生運動時代の同志と恋人が、
含まれていたことを知ったバーテンダーは、
自らが犯人として追われる中、真相を求めて動き始める。


その果てに、主人公が見たものは――。


本作品の意義は、それまでどちらかといえば、
外国のまねごとに過ぎなかった、ハードボイルドという分野を、
日本に広める、契機となったことである。


日本でもっとも人口の多い、団塊世代の学生運動への思い入れと、
その後の実態を描くことによって、バブル崩壊後の、生き方に迷う社会人に対し、
自らが強く生き抜くことの大切さを、知らしめたのである。


ミステリーに限らず、小説は、その時代を生きている人に対して、
書かれるものだが、その影響力の高さが、直木賞受賞に繋がったと言える。


その後も、『シリウスの道』や、『てのひらの闇』など、
話題作を発表し、流麗な文体で、多くの読者を魅了した、藤原伊織だったが、
残念ながら食道がんにより、59歳という若さで、この世を去っている。


今後、藤原伊織の記録を塗り替えるような、
大型新人の登場を、願ってやまない。